4人が本棚に入れています
本棚に追加
だから、『ドール』は人間を殺さない。自殺もしない。
……『主』がいる内は。
同胞のために弁明するけど、『主』が死んだからって、人間を殺そうとするのは、狂った『ドール』だけだよ?
「悔しいのはわかる。だが、頭を冷やせ。お前のチップに記録された映像が在るだろう? アレが在れば罪に問えるんだ、だからさ────」
「は、ご冗談を」
罪に問える? だから?
そんな程度で、済ます気はさらさら無い。
「おい、サリュ!」
「ありがとうございました。このご恩は忘れません」
私は狂言男に捕らえられる前に、外へ飛び出した。そのまま全力疾走。狂言男は追い掛けて来なかった。
あの男は、現在、家族がいるらしい。再婚した。子供も、いるんだとか。
ゆるせない。私はまず男の国へ渡ることにした。
費用なら在る。私名義の、私のための口座を旦那様が作って置いてくれたから。『ドール』でもペットといっしょで、後見が付けば財が持てた。私の後見は旦那様の従姉殿だった。面識は在った。連絡したら、私を『ドール』と知らない彼女はやや涙ぐんでいたようだ。
『ドール』の私にもちゃんと給料を入れてくれていた旦那様。
いつか、いつか返したかった。
文字化けメール。
もっと早く、感付いていたら。
返せたんだろうか。
いつか。
返せたんだろうか。
『ドール』には涙腺が在る。異物を流すために。
感情に任せて流すのは。
「……」
今日で最後だ。
【Fin.】
最初のコメントを投稿しよう!