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ある日、卒業をあと一年と控えたお嬢様が男性を連れて来た。お付き合いしている人だ、と言った。私は、良かったですね、と祝った。……だけれど。
私は、好青年然とするその整った外貌の男になぜか、好感が持てなかった。
旦那様も同じだったみたいで、奥様は「嫌ぁねぇ。子離れ出来ない舅と小舅なんて」と朗らかに笑んでいらっしゃった。
結婚したい、と宣うお嬢様。
まだ早い、と諭す旦那様。
良いじゃない婚約だけでも、と宥める奥様。
お嬢様が私に向いた。お嬢様は私に問うた。
「サリュは、どう思う?」
私は、曖昧に黙って微笑した。
やがてお嬢様は、男の家に入り浸るようになった。旦那様は根負けした。世間体も在っただろうけど、一番は娘の心配をされたのだ。
お嬢様とあの男は、お嬢様の卒業を待って結婚した。
相変わらず、旦那様は眉を顰めていらして、私は、男を、本来なら若旦那様と呼ばねばならない相手を、好きになれず。
文字化けメールも、毎年律儀に来た。
……私は、もっと早く、反対をすべきだったのだ。
何が起きたのか。
何が。
脳が、電脳が、拒絶した、訳ではなく。
私は。
起きたとき、私はすべてを知った。
文字化けメールが私にしか送られて来なかった理由も。
文字化けメールは、ずっと訴えていた。
あの日も、メールは送られて来た。買い物途中だった私は端末にメッセージ欄を開いた。
送信者、私。
受信者、私。
内容は─────
文字化けしていない、画像URL。
急いで帰った。縺れる足を叱咤して。なのに、駆け付けた私の目前には、『ドール』の私でさえ耳鳴りがするくらい静まり返った家。
踏み込んだ先では、真っ赤な血の海が広がり、中心には倒れている旦那様、折り重なるように身を投げ出している奥様。
血塗れのお嬢様は、胸を裂かれていても、うつくしかった。色を失った容色には、涙の痕。
呆然としていた私も、突如背後から殴られた。
けれども私は『ドール』。
チップが無事なら、死なない。
歪む視界に映るは覆面の男たち。中心で笑うのはあの男。嘲笑を浮かべていた。
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