Garble mail

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 お嬢様は、私が『ドール』で在ることをあの男に告げなかったらしい。どうせ死ぬから放置しておけ、と……火を放った。  血に気を取られ気付かなかったけど、何か燃料でも撒かれていたらしい。  燃え盛る家。  私は。  は、ははははははは。  ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……──────! 「私の、頭がおかしいと思いますか? 『狂言男(マッドマン)』」 「……わからん」 「ですよね」  あの家を命からがら這い出た私。無法のスラムと化した地下街に逃げ込んだ。幸運にも、そこで『ドール』も直せる闇医者、通称『狂言男』に拾われた。そうして数箇月程厄介になった私は、いろいろなことを知った。  あの男は、旦那様の遺産全部相続した。涙ながらに、強盗をゆるさないと叫んでいた。茶番劇だ。  滑稽で醜い、茶番劇だった。  男は今、男の祖国に帰国したのだとか。涙を流してゆるさないと喚いていたくせに、犯人の覆面男たちが捕まっていないと言うのに、もう永住するつもりだと。  旦那様の遺産を元に、祖国で稼いでいるらしい。  (えら)く笑えない。わらえないのに、おかしかった。  ゆるさない?  それは、私の、科白だ。  ゆるせない。  私は、器用にもわらいながら、歯軋りした。  せっかく狂言男に直してもらったのに、壊れてしまったのかもしれない。  私は、多分狂っている。 「やめとけよ」  唐突に狂言男が言った。私はわらうことも歯軋りもやめた。 「何を?」  あの男に対して苦虫を潰していた旦那様の如く顔を顰める狂言男。私はもう一度「何を?」訊いた。狂言男は、後頭部をがりがり掻いて、溜め息を吐いた。狂言男の長髪が、揺れた。 「……『ドール』に三原則は無い」  アシモフの三原則。アンドロイドにもロボットにも植え付けられているこの三原則が、なぜか、『ドール』には無かった。倫理は刷り込まれている。道徳も。だけど、拘束力は弱い。『ドール』は、人を嫌えたし憎めた。きっと、殺すことも出来る。  だって、軍事利用をしている国も在るんだ。  そうでも、『ドール』は人間を殺さない。基本は。  人間在っての、『ドール(自分)』ゆえに。『ドール』にとって、人間は[神]に等しい。何より。  己の所有者たる『主』を愛している。咎が及ぶのは『主』なんだ。
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