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この小さな弁当屋に頭にタオルを巻いた作業着姿の彼が来たのは、まだ寒さ残る頃。週に数回仲間と来ていたが、ある日彼が一人でやってきた。
そしていつもは弁当を渡すとすぐに帰ってしまっていた彼が、その日は弁当を手にしたままレジの前で立ち止まっていた。
なにか不備があったのかと心配した時、「……昨日の煮豚スゲー旨かった」と彼が言った。
弁当屋をやっていて料理を誉められるのは何よりも嬉しいこと。
「……あ、ありがとうございます」
そう言うと彼はチラッとあたしを見てサッと帰ってしまった。
しかしそれがきっかけで彼との会話は増え、いつしか彼の好みも分かるようになり、好物を見つけ嬉しそうな顔を見たくて彼の好物を作る日が増えていた。
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