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「そういえば、病気とか入院で思い出したんだけどーーー由貴、左目大丈夫?」
早紅葉が不安そうに覗き込んでくるので、僕は咄嗟に顔をそむけ
「別に平気だよ。つか前見て歩かないと、転んじまうぞ」
そんなことを言った。
「後遺症とかないならいいんだけどね。由貴って眼の色は綺麗だから、そんな眼帯してるの勿体無いしさ」
「それだと眼以外は小汚いみたいな言い方だな」
「自意識過剰じゃないかな、あはは」
・・・ 後遺症、ならある。
夏休み前日ーーー偶然にも出会ってしまった異形の怪物によって、切り裂かれ、抉り取られ、潰された僕の左目。
大鎌を持った死神に助けられ、かろうじて回復した僕の左目は、普通の人間には決して見えない世界を映し出すようになってしまった。
『綻び』。
あいつはそう言っていた。
人が内に秘めた見えない想いの具現体、と。
それでも日常生活には支障がないし、本来の眼球としての役割も失っていないのだから、個人的には問題ない。
ただ、その死神の忠告というかアドバイスみたいなもので、普段使わないときはできるだけ眼帯で塞いでいるだけなのだ。
機械みたくオンオフが切り替えられれば便利なのだが、残念ながらコードレスで二十四時間稼動中である。
もちろん、早紅葉を含めて親しい人にさえ何も告げていない。告げられるわけがない。
適当に転んで怪我したとか、サッカーボールがぶつかったとか嘘をついて誤魔化している。そういう嘘は、根っから得意な方だからなんら気にしちゃいないわけだが、果たしてそれでいつまで持ち堪えられるかはわからない。
だからと言って、安易に口を滑らせて僕の周りの人が、同じような悲劇に遭うのはごめんだ。
あんなもの、誰だって見えなくて出会わない方が幸せに決まっている。
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