8人が本棚に入れています
本棚に追加
「まぁなんにしても、陽ノ宮さんの事情については本人に直接聞いてみるしかないねーーー」
と、早紅葉は急に立ち止まって
「というわけで、ご到着」
前方に佇むマンションを指差した。窓を数えると、建物は九階建てのようで、素人目から見てもなかなか年季の入った感じだった。
ようやく目的地に到着して、僕は少しがっかりした。
身勝手に、好き勝手に、一方的にがっかりしていた。
「あ」
「どうしたの?」
「いや、陽ノ宮ってなんかこう、貴族のお姫様みたいなイメージあったから、高級マンションの最上階にでも住んでるんじゃないのかと思ってさ」
「それって傲慢だよ。先生の話だと、陽ノ宮さん学校の許可を貰って、幾つかバイトも掛け持ちしているらしいし、学費も自分で払ってるみたいだから」
あいつがバイトか、いまいち想像出来ない。そもそも、あの金髪で雇ってくれる所を見つけるなんて、片目でウォーリーを探すより難関だろう。
「あいつが努力家なのは有名だけど、そこまでしてうちの学校に来る価値あるのか? 別に名高い進学校ってわけじゃないんだぜ」
「ちゃんと目的があったんでしょ。何も考えずふらふらしてる由貴とは違うってことよ」
「じゃあ、そういうお前は何かの考えがあったのかよ。叔母さんの話じゃ、県外に行く予定だったんだろ?」
「私? まぁ・・・そうね、それなりに、よ」
なんとも煮え切らない返事だ。
なんにせよ、このままマンションを眺めていてもアスファルトの上で茹で蛸になるのがオチだったので、僕らは日陰を求めてマンションへ入った。
陽ノ宮の部屋は九0五号室。最上階の一番端っこの部屋ということだった。
やはり高いところにいるやつは、住んでる場所も高いということなのだろうか。
そんなくだらない妄想をめぐらせながら、僕らはエレベーターに乗って上へと上がったーーー乗っていきたかった。
最初のコメントを投稿しよう!