第一話 陽ノ宮 翳 ~ヒノミヤ カゲリ~

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そんなわけで、一般入試での入学にも関わらず、教師からは特待生のように慕われ、扱われているわけだ。 金髪というだけで、人にガラの悪さを植え付けてしまう世の中だけれども、彼女の場合は魔法にかけられた後のシンデレラかなんかだと思う。 無論、受けがいいのは教師のみに限らず、大部分の生徒からも彼女は絶大な信頼と、尊敬の眼差しを獲得していた。 僕は一年の頃、陽ノ宮とは別のクラスだったのだが、すれ違う廊下であれ、体育での授業を窓から拝見した時さえ、彼女が一人でいる姿を見たことがない。必ず三人以上は友人、先輩、後輩、教師のいずれかが付いている。 彼女の存在が、学校生活に与える影響は絶大なもので、友人との会話で学食のメニューの少なさについて語っていたのを教師が聞きつけ、後日、全メニューがリニューアルされたという革命が起きたらしい(基本的に僕は弁当持参派なので、学食に通ったことがないが)。 彼女が図書館に通えば、毎週のように新刊が入り、科学の授業で『可哀想』の一言を呟いたが故に、我が校から解剖の授業が撲滅されたりもした。 だが、陽ノ宮自身そうした扱いをかなり嫌悪していたそうで、全国模試が終わった数週間後には、特別待遇はなくなったらしい。 その後も、彼女は教師からの賞賛の眼を武器とせず、一人の生徒として友人やクラスメイトとの学業生活に勤しんでいた。 努力を惜しむこともなく、それでいて自慢気にも思わない。 誰にも彼にも壁を作らず、全ての生徒に分け隔てなく対等に接していた。 頭のてっぺんからつま先まで、何もかもが出来すぎな人間である。 実際に接点を持ったことがなくとも、生徒伝いの噂話や口伝い程度でこれだけ朗報が流れてくるのだから、彼女は本物で間違いない。 外見は中身を裏切らない、なんてのも聞いたことがあるが、彼女の場合は中身が外見を裏切りすぎている。 完全かつ瀟洒な女子生徒。陽ノ宮 翳。 だが、ある時期を境にーーー彼女の名声は聞くことは無くなり、その姿も見ることはなくなってしまった。
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