第一話 陽ノ宮 翳 ~ヒノミヤ カゲリ~

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放課後、先日に新しく買ったテレビゲームをする為、足早に教室を飛び出した僕は、同級生で幼馴染でクラスの委員長でもある早紅葉に呼び止められた。 今思えば、この時振り返らずに聞こえなかったフリでもしておけば、これから始まる面倒事に巻き込まれずに済んだかもしれなかった。 しかし、今更何を言っても後の祭り。たらればだ。 早紅葉曰く、今朝方に音楽の教師で僕らの担任でもある三枝先生に陽ノ宮の家へ行って、様子を見てきて欲しいと頼まれたそうだ。 クラスの委員長としての立場もあったのか、早紅葉の人の良さなのか、その両方というのが正解だとは思うが、彼女はあっさり承諾したようだ。巻き込まれる僕の身にもなっていただきたい。 ちなみに僕が道連れにされた理由というのが、『私だって面識なくて一人じゃ気不味いんだから、一緒に来てよ。幼馴染みでしょ!』というものだった。 酷い言い草、幼馴染み権の濫用だ。 仕方なく断っても後が怖いので、諦めて彼女の頼まれ事に付き添う形となった。 そして現在ーーー若干の空腹を覚えつつ、陽ノ宮が住居としているマンションまで肩を並べて歩いている。 灼熱真っ只中の本日は、お天道様の機嫌も最高潮のようで、雲ひとつない青空が続いている。前日が雨だったせいか、湿気があってとんでもない暑さのコンクリートとなっており、さながら服を着たままサウナの中を歩いているような気分だった。 今に限ったことではないが、遥か頭上で燃え上がる陽の玉は、様々な演出面で僕とは折り合いが合わないらしい。 約一億五千万キロ離れたあいつに好感が持てるのは、どうやら冬を迎えてからになりそうだ。 「・・・くそ暑いな。脳まで干上がりそうだ」 「今年二番目の暑さだって、はいハンカチ」 早紅葉が鞄から出したそれを遠慮なく受け取り、額や頬の汗を拭う。 勿論このまま返すのは失礼なので、学ランのポケットにしまって一日借りておく事にした。 なぜか紳士な僕。
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