第一話 陽ノ宮 翳 ~ヒノミヤ カゲリ~

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「それにしても、三枝先生も怠慢だな。別に僕らじゃなくても、先生が直接行けばいいだけの話じゃないか。友達でもない僕らが顔を出したところで、警戒されて話どころじゃないと思うぜ」 まして僕は男だ。年頃の女子が身に付けている異性への警戒心は尋常ではないはずだ。 「それが残念。既に何度か訪問したらしいよ。三枝先生も、学年主任の五味先生も、教頭の矢車先生も、挙句には校長の保坂井先生もね」 早紅葉は指折り数えながら言った。 「お偉いさん方のオンパレードだな」 にしても相変わらず彼女の事となると、学校側も対応が異例だ。 「だけど、それでも事情も聞けなかったみたいで、他の先生も徐々に諦めて、春頃からは誰も訪問してないみたい。でも、三枝先生だけは続けていて、祝日の朝から訪問したこともあるらしいし、ゴールデンウィークとかの連休も欠かさず行ったって言ってたよ。怠慢どころか勤勉すぎて逆に見習えないよ」 「そうなのか」 なんせ担任、自分のクラスの教え子だからな。そりゃ人一倍必死にもなるだろう。 「でも尚更、望み薄だな。学校のお偉いさん方で説得出来なかったお姫様を、僕ら平民が説き勧められるとはとても思えない。僕としては次の交差点を右折して、突き当たりのコンビニでアイスでもというのがベストな心境なんだがな」 「もう、男なんだから一度決めた事くらいきちんとやり通す!!」 「あ・・・はい」 怒られてしまった。決めたのはお前なんだけどな、と言い返す事もできたが、火に油を注ぐだけなので止めておこう。 これ以上気温が上がるのは勘弁だ。 普段は学校でも、友達の前でも大人しいくせに、僕の前だとすぐに狂犬を発動しやがる。 よく漫画で、男女の幼馴染みの設定を見かけて羨ましく思っている若人がいたら、参考までに断言しておこう。 幼馴染みは、それほど良いものではない、と。
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