第一話 陽ノ宮 翳 ~ヒノミヤ カゲリ~

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自分の方が、数日ばかり誕生日が早かったからという理由で、肝心な所で僕を下手に見る傾向がある。 姉らしく、弟のように。 僕だって、もう幼くないのだから自分の面倒くらい自分でみれるのだが、そんな意見は彼女の耳に入らない。 誰がなんと言おうと、進んで世話を焼きたがる。百歩譲って、僕だけならまだ良いのだが、高校に上がる少し前くらいだろうかーーーその頃から、彼女のそれが、他人にも顕著にみられるようになっていた。 そんな面倒見の良さからクラスの委員長にまで抜擢され、先生からの頼み事も骨身を惜しまず引き受けてしまうのだ。 本人がどう感じているかは定かでないが、僕から云わせれば随分と損をする性格の持ち主だと思う。 「ん、なに?」 「いやーーー別に、なんでも」 「どうせまた、私の胸とかじろじろ見てたんでしょ。由貴(ユキ)はいつまで経ってもそういういやらしいとこ変わらないよね。年頃の男子ってこれだから嫌だな」 「断じて誤解だ!」 「そんな必死に釈明しなくてもいいけど、陽ノ宮さんに会った時に同じような色目使ったら、止めるからね」 「息の根っ!?」 満面の笑みで言う早紅葉。相変わらず、怖い女だ。冗談と分かっていても、聞き流すと後悔する。 忘れもしない、小学四年の出来事。 男子の間で、時代的には少し遅いスカートめくりが流行った頃、僕も青少年の若さと勢いとやらに身を任せて、昼休みの掃除の時間に、早紅葉のスカートをめくったことがある。 結果、キレた彼女が全力投球したゴミ箱でおでこを打ち抜かれ、床に後頭部を強打して気絶させられ、病院送りにされた経験をしている。 だから言える。 止めるといったら、本当に止められる。
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