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「でも陽ノ宮さん、本当にどうしたんだろうね。あんなに元気だったのに」
早紅葉から話題を戻してきたので、とりあえず合わせることにした。
「さぁな、病気とか怪我とかで入院してるわけじゃないらしいしな」
「ご両親からも学校には電話で『そんなのは知りません』の一点張りしか連絡がないらしくて、正確な事は誰も知らないみたい」
「ん? その言い回しだと、両親は一緒に住んでないみたいな感じじゃないか」
「そうだよ。陽ノ宮さん一年の頃から一人暮らしだしーーーあれ、言ってなかったっけ?」
「悪いけど初耳だ」
高校から一人暮らしって、どんだけ優れた奴なんだよ。
参ったな、余計に気分と足取りが重くなる。
一人暮らしの女子の家を訪ねるなんて、男冥利に尽きるイベントのはずなのに・・・。
なにこれ、全然嬉しくねえ。
新手の拷問かなんかじゃないか。
「いじめられてたって話もないし、学校が嫌になったとかじゃないと思うんだけどな」
「仮にそうでも、あいつならいじめの主犯ごと言いくるめそうな気がするけどな」
彼女の事をよく知らない、遠巻きに見ていた凡人の僕でもそれくらいは分かる。
学年一秀才で、何でもこなす有名人である彼女の事を、羨ましく、時には妬ましく思った生徒もいたかもしれない。
照り輝く太陽に、疎ましさや苛立ちを覚えた影があったかもしれない。
しかし、それは誰しも当たり前の事である。万人に愛される人間などいない。
そんな人物がいれば、世界で戦争なんかが起こるはずがないからな。
でも、彼女はーーー陽ノ宮 翳はそんな小さなものに屈してしまうほどやわな人間ではないはずだ。
それくらい、わかる。
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