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翌日、休日の午前10時頃、ジュライは一人フレアの街の中心部に出かけていた。
昨日は転校生のとんでもない正体を知り、悪魔アスモデウスと戦い、天使と悪魔の存在を知り、スワンから塔の守護の任務終了を告げられるという、怒涛の展開という言葉がお似合いな日で、一睡しても気持ちはまとまるわけがなく、もやもやした気持ちは晴れない。
出かけたのは、その気晴らしだった。
フレアの街もレンガ造りの建物が多く、中心部には服や雑貨など様々な物を販売する店や、飲食店が並び活気に溢れている。天気もいいし、昼休みや寮で食べるお菓子でも買えば、少し気が晴れるだろうと思い、どのお店に入ろうか考えていたときだった。
「ひったくりよー!!」
突然叫び声が響いた。そして人混みをかき分け、いかにもチンピラといった風貌の若い男が、女物のバッグを脇に抱え、必死の形相でこちら側に走ってきた。
「あの男! あの男よー!!」
人混みの奥から、転倒させられたのか足を押さえ、立てずにいる初老の女性が、チンピラを指さして必死に叫んでいるのが見えた。
「アイツか!」
お年寄りからバッグを奪い取り、そのうえ怪我をさせたかもしれない、そんな悪人はほうっておけない性分のジュライは、チンピラを追いかけた。しかし、ジュライ以外にも、チンピラを追いかけるひとつの影があった。
チンピラを追いかけるジュライを、その影が追い抜く。
「えっ?」
影の正体は青年だった。少しツンツンとはねた黒髪で、紫系の色で統一した服に身を包み、背中には槍を背負っている。彼も戦士だろうか? かなりの足の速さで、みるみるチンピラとの距離を縮めていく。
そして、右手でチンピラの服の右肩の部分を掴み、素早くもう片方の手でチンピラの頭を押さえ、地面に押さえこんだ。
なんという鮮やかな手さばき、チンピラは暴れようとしたが、青年に一睨みされ「まっ、まいりました」と言いあっさり降参した。
「悪党一人確保ってところだな。こいつを追いかけた君、フレアの学生だろ?」
青年がそう言って、ジュライのほうを見て笑いかけた。青年は目つき顔つきともに鋭くあの髪型も相まって、一見するとチンピラより凶悪そうな雰囲気だ。しかし、しゃべり方はどこか爽やかで、その笑みからは人の良さを感じた。
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