第1章

3/15
前へ
/15ページ
次へ
久しぶりに自動ドアをくぐると、息苦しく感じた。 人の目が気になって仕方がない。 【ピンポーン】 そう鳴る入り口ですら怯えている自分がいた。 とにかくすぐに食べられそうなものを物色した。 昼時には一杯になるコンビニ。近くに専門学校があるからだ。 それを避けて、早めに来たおかげでスーツ姿の男や、いかにもママっぽい女、手を引かれた子供。 後は年配の女の店員と、若い男の店員しかいない。 それでも、私には喉が渇くほど怖い存在だった。 『コクリ』 自分の飲み込んだ音すら胸が苦しくなる感覚に襲われる。 世の中は動いているのだ。 私だけ数週間前と変わらない。 デリのコーナーで足を止めて、分厚いカツサンドを選んだ。 私はこれが好きだった。 紙パックの野菜ジュース。 これも定番の緑のジュースだ。 ヨーグルトも買った。 クリーミーで酸っぱくない高校のころから大好きなもの。 8枚きりの食パン。卵。ウインナー。 サラダのパック。1リットルの紙パックのオレンジジュース。 次々に籠にほおりこんで入った。 私の目はどこかキョロキョロとしていたであろう。 俯き加減でレジにコトッと音を立てて籠を置くと、男の店員が「いらっしゃいませー」と呟くように言って、バーコードを読み込み始める。 ふと思い立って、私は言葉を発した。 「あの、払い込みもお願いします」 何日ぶりに言葉を発したろうか? まだ、声が出たのだと自分に驚いた。 「はい!ありがとうございます!」 店員の元気な声を聞きながら、カウントされる音を聞いてなんだかほっとしたのだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加