第1章

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当時付き合っていた恋人は、そのごたごたに紛れて去っていった。 職場でも、早々に「倒産」を意識して辞めていく人が増えた。 『事故物件』『不良物件』 私の居た会社で建てたものは、そうでないものまで疑われた。 先見の目のあったものたちの思うとおり『倒産』が目の前に大きく見え始めた。 そこを、大手新鋭建築会社が丸ごと買い取った。 それが一年前。 そして、古い人間は1割を残して退職せざるを得なかった。 自主退職を選ばないものは、何とか理由をつけては首を切られた。 私は自主退職し、次の職場を探した。 前の職場の名前を出すと、同情された。 それでも、なかなか決まらなかった。半端な上司の位置だった扱いにくい存在として扱われた。 ランクも落とした。 職種を変えても、運悪く前の会社の建物で被害にあった顧客がいたりして面接で罵られた。 私は目の前の仕事をこなしてきただけだった……。 失業保険も尽きて、貯金だけの生活になって半年。 友人達は子育て、結婚して別世界だった。 連絡を取るのも億劫で、両親も早くにいない私には仕事だけが生きがいだった。 家族を持つことも、子供を生み育てる事も正直どうでも良かった。 少し前までは、家族でもいたら違ったかもしれないのにと寂しく思ったが、今では通り越していた。 ――『私は、負け犬なのだ』―― そう思った。 そして、ひと月ばかり引きこもっていた。 世の中の流れなどどうでも良くて、ただひたすら眠り、ちょっとの食事、朝だけは仕事があった時と同じように目覚めた。 でも、そしてまた眠った。それがこの数週間だった。
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