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「悪い、春妃」
クリスマス当日、社内ですれ違いざまに、例によって目配せで非常階段を示されて、行ってみればやっぱりそこに亨がいた。
「別に、仕方ないよ。仕事でしょ?」
「予約してたレストランは無理だけど、なるべく早く帰るから……」
そういって、スーツのポケットに手を入れてごそごそとする亨に、盛大にがっかりしてはいるが平静を装って言った。
「気にしなくていいから、仕事に……」
「うちで待ってて」
片手をひょいっと持ち上げられて、手のひらに何かを握らされた。
硬くてちょっとひやりとした感触のもの。
「え、勝手に入ってていいの?」
「いいよ。寝て待っててもいいけど……」
亨が屈んで、耳元でふわりとあったかい息の感触。
「ちゃんと風呂入って、キレイにして待っててな」
「ばっ……」
誰もいない、非常階段。だからといって、社内でなんてこと言うんだ。
ぶん、と鍵を握った手を振り上げるけど、当然ひょいっと躱されて亨は仕事に戻って行った。
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