15人が本棚に入れています
本棚に追加
その途中で、
………あ。
目の前を歩く学ラン姿の男の子の制服から、何かがぽすん、と私の前に落ちてきた。
なんだろう、と思って拾いあげると、それは落ち着いたえんじ色の定期入れ。
「………これ……」
柄はないけれど、端の方にあしらえられているマークが控えめに格好良さを醸し出している。
……きっとこの持ち主さん、すごくオシャレな人だ。
高校生でこんな定期入れを選ぶなんて、センスがいい。
私はどちらかというと派手な柄のついたものよりも、シンプルなものが好きだ。
それでいて密かに細かいところに気を配られたデザインが好き。
結局、 彼のセンスがいいというより、私の好みと合っているだけかもしれない。
「………って」
こんなことを考えている場合じゃない、これを早くあの学ランの人に届けなければ。
前を向き直るといつの間にかかなり差が開いていて、かなり前に彼の背中が見えた。
見失ってしまったら私も彼も大変だ。
慌てて、前の歩く背中を小走りで追いかける。
「……あの」
追いついて、後ろから学ランの背中に声をかけるけれど、その背中は止まることなく進んでいく。
……き、気付かれてない。
「……あのっ!」
今度はもっと大きな声を出して、学ランの袖をくいっと引っ張ると。
彼はようやく気付いたみたいで、その歩みを止めた。
最初のコメントを投稿しよう!