一杯の水・ライジング

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「あれ? なんだあれ? 」  湖の奥、まだ凍っていない深みで、水の青さが歪んで見える。  その歪みが、俺の氷に向かってきた。  そして氷の下に潜り込むと、すごい力で持ち上げ始めた! バキッバキバキ!  氷を割り、突き出した物は緑色で、直径1メートルはある長い蔦だった。  その表面はトゲで覆われている。 「あ! 何するんだよ! 」  何本も現れた緑の蔦は、せっかくの氷を堰の口から捨てやがった! 「誰かが先にここで自由研究してたのかな? 」  武志が気の毒そうに声をかけてきた。 「俺、こんな目にあわされるほど悪いことしたか!? 」  俺が怒っていると、蔦の一本が山の中に伸びていった。  その先には人間大のつぼみがついており、それが開くと真っ赤な花が咲いた。  あれは、バラか? 「悪いですね」  静かだが、怒りを込めた声。  ダムの上の歩道は、山の中を散策する道へ繋がっていた。  木陰にいたそいつは、開いたバラの花に乗ってやって来る。  華やかな身のこなし、というのかな。  そいつの体型は痩せ型だが、武志の見た目のように運動嫌いが小食でそうなった感じじゃない。  何というか、無駄なく引き締まった刀、レイピアみたいな感じだ。  そのくせ胸は大きい。  高い鼻にきりりととがった顎。  モルガン・ローズ。  こいつもクラスメートで、バラを操る能力者。  ヒーローとしての名は無い。  いかなる遺伝子か、与えられた能力による作用か。  銀色の髪とこの真夏日にも関わらず雪のような白い肌。  目は右が赤で左が青のオッドアイ。  ちなみに俺は、目も髪も黒。  肌は焼けた黄色。  軽肥満。  ……恥ずかしい。  モルガンはルルディという異世界からやって来た留学生だが、同じ異能力者でこうも違うのか。
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