一杯の水・ライジング

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「ここは夏休み前から、私が研究のために使っていました。  氷を作ると薔薇が弱ります」  俺たちの前に降り立ったモルガンは、そう言いながら蔦から下りて近づいた。  そいつが乗っていた太い蔦から、今度は普通サイズの枝が伸びる。  そして、普通サイズの赤いバラが咲いた。  モルガンはそれを手織り、俺に差し出す。 「どうか、お引き取りを」  相変わらずキザな奴だ。 「約1万字の短編小説が、お前のセリフで半分超えたぞ  よそに行けるわけがないだろ」  それでもモルガンはクールな表情を崩さない。  かっこうは水色の作業着と帽子、それに長靴。  しかも、ところどころ土汚れがついている。  ダムの作業員と言っても通じそうだな。 「このダムのあちら側は、私のホームステイ先の土地なのです」  あいつは自分がやって来た山を指さした。 「松の木が多いでしょ? 秋にはマツタケが出ます」  それは楽しみだな。 「ですが、この夏の暑さでは、マツタケの菌が死滅する恐れが出てきたのです」  それは心配だな。 「この薔薇は、ヴィヴィアンと言います」  アーサー王に聖剣エクスカリバーを授け、騎士ランスロットを育てたという湖の精霊か。  いい名前を付けるじゃないか。  この時代、この程度の教養がないと異世界とは話ができない。  時にアーサー王やランスロット本人がいる世界に出くわすこともある。  そう言えば、モルガンもアーサー王伝説の登場人物だな。  まさか……いや、苗字が違うな。 「わたしは、ヴィヴィアンの根から山へ水分を送り込み、それを凍らせることで、山の地温……地面を冷やす研究を行ってきました。  そうすれば、マツタケの菌が死ぬのを防げると考えたのです」  こいつのホームステイ先は、林業会社の社長宅だ。  生活かかってんだな……。  まてよ。 「氷で地温を下げる? そんな能力を持つバラなんかあるのか? 」 「以前、あなたが凍らせた氷を保存していました。それに使われた細胞から能力をコピーしました」 「へえ、そんなこともできるんだ」  一般に、ルルディの異能力者は俺たち地球の異能力者より多くの能力を扱える。 「パクリじゃないか」
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