一杯の水・ライジング

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 乱闘はまだ続いている。 「ぎゃあああ!!! 」 「きゃあああ!!! 」  2人の男女が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。  さっき、俺と武志を追いかけながら争っていた2人だ。  その2人を追うのは、柄が1メートルはある箒をもつ、知らない青年だ。 「そこで土下座しろ!! 」  鬼のような形相で箒を二人の頭に叩きつけた。  男女はその迫力に押され、青年に向き直って、熱いアスファルトの上に土下座した。  青年は獣がかぶりつくように二人に詰め寄ると、男の頭を踏みつけ、女の長い髪を引っ張り上げた! 「よくも俺のバイクを壊したな!  お前らの主義主張には愛想が尽きてんだ! 」  その言葉が納得いかないらしい土下座の男女。 「ま、まってくれ。君は僕らのことを、どれだけ知ってるんだ? 」  その言葉は、バイクを壊された青年の怒の火に油を注いだだけのようだ。 「そういう文句を言うから嫌いなんだ! お前たちにはお仕置きだ! 」  そう言って、箒を振り上げる! 「まどろっこしいですね」  モルガンがつぶやいた。  空から、赤い花弁が舞い降りた。  ひらひら ひらひら  それも大量に、暑い夏の日が陰るほど。  商店街の上に、バラの枝が何本も伸びていた。  モルガンが手を付けたヴィヴィアンからの物だ。  花弁は風にも関係なく暴れる客に張り付いた。  はがそうとしても、さらに多くの花弁が手足を、顔を覆っていく。 「眠りなさい」  そう彼女がつぶやいただけで、暴徒はバタバタと倒れていった。  倒れた者から花弁ははがれていく。  能力の提供が止まった薔薇の大樹は、霞のように消えてしまい、モルガンの手に普通サイズの花が残った。  暴徒達は眠り続ける。  花弁が大量にまきついているため、ケガはなさそうだ。 「まったく、とんでもない奴らだな」  俺はそう言って、捕まる暴徒達を侮蔑の視線で見送った。
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