一杯の水・ライジング

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ミーンミンミン  蝉の声がうるさい。  いけない!  集中力を乱すな!  俺、釶打山なたうちやま 茂は高校2年生!  夏休みが何時までもあると思うな!  今年こそ最初で宿題を終わらせるんだ!  毎年の夏休み後半を思い出せ!  目の前にあるのは、科学の教科書、辞典代わりのスマホ、ノート、シャーペンと消しゴム、それを収める筆箱だけだ。  そして、その向こうには何より大切な物がある。  それは、安全保障にかかわる重大なものだ。  誰にも奪われるわけにはいかない!!  これだけに集中するんだ!! カチャカチャ 「ハハハ」「ホホホ」  食器のこすれる音、笑い声もある。  それも、満員御礼だ。  夏休みシーズンだから、子供が多いファミレスはもっと騒がしいと思い、ちょっと大人向けの喫茶店で勉強することにしたんだ。  だが、うかつだった。  ちょうど窓際の席にいたから、外を見てみる。  この街は市町村合併の前から市だったから、それなり多くの店がひしめく商店街がある。  駐車場にはバイクと車がすずなりだった。  この辺りは自然が多いことで有名だ。  有名すぎて世界農業遺産になった。  だから、長期の休みになるとツーリング客が道路を埋める。  店を今埋めるのは、そんな遠くの地方までわざわざやって来る元気のある、ありすぎる人たちばかり。  まったく、迷惑なくらい!!!  いや、ここはお店だ。  人がいることは、いいことなんだ。  出るのは、この紅茶を飲んでからにしよう。 カランカラン  入口のドアを開けるとなる、鈴の音。 「こんにちは」 「いらっしゃいませ」 「いらっしゃい」 「今日も暑いね」
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