一杯の水・ライジング

8/19
前へ
/19ページ
次へ
「うん、わかった」  武志はそう言うと、スピードを落とした。  代わりに半ズボンをはいた足の両太ももの皮膚が割れて、腿に仕込まれた2つのジェットエンジンが現れる。  その噴射が浮力を生み出した。  そのままゆっくりと、山へと向かう。  ああ、いい風だ。  ふと、下の商店街を見てみた。  学生を見れば、片端から写真を撮るやつがいると聞いたことがる。  そいつは後で異能力者だとわかれば、週刊誌だかどこかに売りつけるという、ガラの悪いカメラマンだ。  他にも異世界人や異星人でも撮りまくるらしい。  ま、ここから見てわかるわけないか。 ************************************  今から20年前、世界は不思議で溢れた。  世界中の人間の中から、それまでに知られていた物理法則とは全く違う現象を起こす者達、異能力者が現れた。  なんでもない人が突然、異能力を得たパターンもあるが、俺は生まれついて能力を持っていた。  当然、世界中が大混乱。  犯罪発生率はうなぎのぼり。紛争も激化の一途をたどったそうだ。  だが、思わぬ喜びもあった。  先にそのような異能力を利用していた異世界の住人がこっちに興味を持ち、使者がやって来るようになったのだ。  武志が今使っているサイボーグの体も、そうした世界との協力の中で造られた。  骨格はチタン。エネルギー原はコメなどの炭水化物を使った燃料電池と、人口内臓による食物消化の併用。  これがなければ、こいつの命は2年前に異世界から怪獣が攻めて来た日に終わっていただろう。  そんな異世界の協力もあり、日本政府は異能力者たちを集めた研究機関を作りあげた。  今左側に見える山を、ふもとから頂上近くまで、らせん状に囲むように建物が並んでいる。  緑の葉が茂る桜の木に囲まれた、幼稚園から大学院までそろった超次元技術研究開発機構。  通称、魔術学園だ。  その周辺は日本有数の、異世界人や異星人がいる地域になった。  治安は……まあまあかな? ************************************
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加