一杯の水・ライジング

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 まあ、それはそれとして。  俺達は鍵山ダムにやって来た。  ダムのてっぺんは一般に開放されていて、それなりにカッコいいデザインの手すりが並んでいる。  来てよかった。  ここに来るのは、小学校の時以来だ。 「僕は時々来てるよ。防犯パトロールでだけど」  俺を下すと、武志はジェットをしまった。  外れた皮膚はごく小機械の集合体、ナノマシンで作られている。  傷は残ることなくふさがった。  このダム、前に来た頃はできたてで、コンクリートも真っ白だった。  今では隙間にゴミがたまり、黒ずんでいる。  道路沿いの草は真夏の日を浴びて伸び放題。  道にアスファルトの隙間があれば、そこまで草が生えている。  誰も来ていないことは無いのだろうが、何となく物悲しい雰囲気だ。 「で、どうするの? 」 「ダム湖に超濃度細胞水を投げ込んで、性能を試してみる。  風呂では水が少なすぎたし、学校のプールでは怒られるし」  まずは今日の日付と時間、それに気温だ。  ノートに書き込む。 「7月27日。温度計は……」  書き込みが終わると、ポケットから硬い粘土状になった水を取り出した。  この連日の暑さでダム湖の水は減り、それまで水に隠れていた草木が生えていない山肌が見えていた。  ダムの下流側、堰の口から出る水も、ちょろちょろだ。  それでも、ダム湖には人口2万人を支える水がある。 「凍れ! 」  そう念じて細胞水を投げた。  投げる直前に粘度を消した水は、バラバラになって湖に落ちていく。  そして投げ込んだ後から瞬時に凍り始めた。 パキッパキパキ  氷同士がくっつき、それでも氷結が止まらないため砕けて散らばる。 「ふ~ん。北極の氷山みたいだ」  武志、なかなか風流な事を言うな。 「南極だと大陸の上を氷が滑るから、真っ平らな氷山ができる。  でも北極に大陸は無い。海水が凍ってできるから、あんな風にとがった氷になるんだよね」  そうそう。と相槌を打ちながら、俺はカメラで湖が凍りつく様子を撮影していた。  どれだけ凍ったか、正確に測れればいいのに……。
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