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時々実家に足を運んでいた為、それまでも体調が悪そうにしていたことは知っていました。
時々病院へ足を運んでいることも知っていました。
しかし、あなたは私が中学生の頃患った腎臓病で元々病院通いをしていたので、そう重くは受け止めていなかったのです。
もっと早く気付いてあげたかった。
そうすれば、もっと楽をさせてあげられたのに。
あの日の衝撃を思い出すたび、私は震えが止まらなくなります。
その日。
臨地実習へ行くに当たり、自宅よりも実家の方が近い私は家の玄関を開けました。
就職活動の延長線で、県外から戻ったその足でした。
ただいま、とはもう、言いません。
私が帰るところは自分で家賃を払うあの家だ、と粋がっていたのです。
ハロー
そんな風にリビングの戸を開けたと思います。
いつも通りに。
しかし其処に居たのは、いつも通りなんて言葉からかけ離れた、疲れた顔のあなたです。
貴方は座っていましたが、顔つきはかなりやつれていました。
本当は横になっていたかったはずです。
黒くてボリュームのあった髪の毛は見当たりませんでした。
黒い薄手のニット帽をかぶっていました。
治療の副作用です。
そんなの、病気に詳しくなくたって誰もが知っていると思います。
忘れもしません。
貴方は、黒いニット帽を、被っていたのです。
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