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「遠慮しとくわ。あんさんの話は魅力的やが、今の生活で十分満足してまんねん。それにその話が本当なら、他の買い手がすぐ見つかるやろ。せいぜい、きばりや」
男は俺の肩にポンと手を置くと席を立った。「マスター、おあいそ!」
数秒後、入り口ドアの閉まる音がして、客は俺一人になった。俺は大きく大きく嘆息した。
「やっぱり失敗したか」
マスターが携帯を置いて立ち上がった。顔中にニヤニヤという文字が貼りついている。
「あーあ、三倍満を逃しちまった」
「駄目な男の三倍満か?」
「違うよ。カモにしやすい男の三倍満」
俺は交渉中に我慢していたモヒートにちびちびと口をつけた。
「三流詐欺師が一丁前に客の品定めしてんじゃねえよ」
マスターは莞爾として笑った。
そう、彼の言葉通り俺は詐欺師である。それもドの付く三流詐欺師なのだ。
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