先見の明

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「だーから、初めから言ってるだろう。お前が詐欺なんて成功しないって」 「分かんねえだろ」 「分かるんだって、俺には」  けっ。また始まった。  このバーで商談すると、ほぼ必ず失敗する。馴染みの店で、大概のことは多めに見てくれるので重宝しているのだが、そろそろ控えた方が良いのかもしれない。ジンクスは気にするタチだ。  そうして、金をふんだくれなかった俺は、一人この男の駄目出しを聞く羽目になる。 「まず第一に、その高そうなスーツや時計。それ全部パチモンだろ」  ぐうの根も出ない。その通りだった。俺は頭を垂れる。 「そういうところから駄目なんだよ。一流ほど細部にこだわるもんだ。心意気がねえんだな、お前には。だが、まあそれはまだ良い。ハッタリを効かせれば最悪ごまかせる範疇だ」  ただし! と強調するように奴は語気を強めた。 「理論に齟齬がありすぎるんだよ、お前は。せっかく方向性は間違っていないのに、不明瞭な部分をでまかせで補おうとするから、肝心なところがぼやけて真実味が薄れるんだ。勉強不足。これは詐欺師としては致命的だね」
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