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「随分と分かったような口をきくな、お前」
「分かったようなじゃねえよ。分かってるんだ。さんざん俺が手を引けって言ってきたのに、お前はよ。いつも言ってるじゃないか。悪いこと言わんからやめておけ、俺には先が見えるからってよ。ま、お前の分かりきった失敗も外から見てるぶんには面白いからいいけどな」
「わーったよ」
俺はテーブルを叩き付けた。「やめりゃ良いんだろ、やめりゃ。この仕事には向いてないってよく分かったよ」
正直なところ、そろそろ潮時かと思っていたところだ。
「そうか。よし」
マスターは頷くと厨房に引っ込みまた戻ってきた。「餞別だ、食え」
それはどこかモタっとしてどす黒いカレーであった。口を付ける。やはり恐ろしく不味かったが、なんだか泣けてきた。初めて、俺は奴の手料理を完食した。
「詐欺から手を引いて真っ当な社会生活を送ることにするよ。今日が俺の再出発だ。今まで世話になったな」
マスターは、立ち去ろうとする俺に声を掛けた。
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