28人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬間、俺は慄然とした。
送信日を確認する。それは、今から逆算して三百八十八日後の未来からのメールだった。
「惜しかったよなあ。お前がおっさんに説いてた多元宇宙だとか、電脳世界だとかの仮説な。あれ、方向性だけは間違ってなかったんだよ。で、その本物のシステムがこれってわけだ。おい、どうした。おいって。……駄目だ、こりゃ」
ああ、そうか。そういうわけだったのか。
だから、こいつは株で大儲けできたんだ。
だから、こいつは突如として隠居生活に入ったんだ。
だから、こいつは悪目立ちしないように場末のバーでマスターやってんだ。
だから、こいつはいつも分かりきった態度でいたんだ。
だから、こいつは……。
しばらくして、バーの扉が再び開いた。それは三流詐欺師にとってもバーのマスターにとっても、おおよそ客と呼べる者ではなかった。外では赤色灯の光が綺麗な弧を描いていた。
最初のコメントを投稿しよう!