先見の明

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 瞬間、俺は慄然とした。  送信日を確認する。それは、今から逆算して三百八十八日後の未来からのメールだった。 「惜しかったよなあ。お前がおっさんに説いてた多元宇宙だとか、電脳世界だとかの仮説な。あれ、方向性だけは間違ってなかったんだよ。で、その本物のシステムがこれってわけだ。おい、どうした。おいって。……駄目だ、こりゃ」  ああ、そうか。そういうわけだったのか。  だから、こいつは株で大儲けできたんだ。    だから、こいつは突如として隠居生活に入ったんだ。  だから、こいつは悪目立ちしないように場末のバーでマスターやってんだ。  だから、こいつはいつも分かりきった態度でいたんだ。  だから、こいつは……。  しばらくして、バーの扉が再び開いた。それは三流詐欺師にとってもバーのマスターにとっても、おおよそ客と呼べる者ではなかった。外では赤色灯の光が綺麗な弧を描いていた。
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