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年の頃は五十過ぎであり、くたびれたスーツ、禿げ散らした頭、酒太りした不格好な胴回り、アルコールの臭いに紛れているが年相応の加齢臭、おまけに薬指にあるべき光る物がないところを見ると独身。これが麻雀ならば三倍満は固い大物手といったところか。
ただまあ、場末のバーの安酒でここまで気持ちよさそうに酔えるというのは、ある意味では羨ましくもある。憧れはしないが。
「ほう、具体的に方策はありますか?」
言いながらピスタチオを割って口に放り込む。
「幾らでもあるわ。馬券買えば全てが万馬券。宝くじ買えば一等賞。手っ取り早くカジノでキャリーオーバーごとまるっとお持ち帰りするのもありやな」
「全部ギャンブルじゃないですか」
だから駄目なんだ、お前は。「それじゃ発想が貧困すぎますよ」
つい本音がこぼれた。
年端もいかない若造にこんなことを言われれば普通は怒るが、この男、気立てだけは一丁前に良いようで、またも豪快に笑うのみである。
「稼げりゃなんでもええやんけ。なあ、マスター」
カウンターで手持無沙汰にグラスを拭いていた若いマスターは、神妙に頷きまた作業に戻った。平日の昼時で、他に客がいないこともあって、男の声は俄然、大きくなっていた。ただ酔っているだけなのかもしれない。
俺はわざとらしく咳払いをした。
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