先見の明

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「実はですね、過去に干渉するということ自体はそんなに難しいことではないのです。多元宇宙という考えを知っていますか?」  男は期待通り、難しい表情で首を振った。下膨れした頬がその都度、ぶるぶると波打っている。俺の講釈が長くなるぞと踏んだのか、マスターは椅子に腰かけて携帯をいじり始めていた。“客”の前だと言うのに、まったく。 「簡単に説明しましょう。今、我々がいるこの世界での一瞬を時流の一点と見て、その点の無数の集合を時間の連続体として捉えるわけです。 そうすると表面上、我々の世界は一本の長い線と見ることが出来ます。実は、この線は一本ではなくて無数に存在しているわけです。 つまり、今この世界で過ごしている我々の他にも、無数の我々が別の線の中で同時に存在し、生活している。これが多元宇宙という考えです」  チェイサーを流し込み、喉を潤す。 「さて、この多元宇宙の考えに基づくと、隣り合った世界というのは実によく似通っている。この無数に走る平行世界は、離れれば離れるほど、中の様子の差異は大きくなりますが、今からするお話は隣り合った世界についてなので、遥か遠くの同時存在の定義については割愛しましょう」
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