先見の明

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「あいたた、また頭がいたなってもうた。理論はほどほどでええから、結論だけ教えてくれんか」 「では、その矛盾はどうやって補完されているのか。この難題は平行世界の存在によって説明可能です。  要するに、まかないきれなくなった電脳空間の一部は、隣の平行世界における電脳空間を共有することで成立しているわけです。そう考えると、その共有している電脳空間からメールを飛ばせば、平行したあちらの世界との通信が可能になるのです」  マスターが携帯片手に話を聞きながらクックッと奇怪な声で笑いをこぼしている。笑いたきゃ笑えばいいが、邪魔はしないでもらいたい。俺はあからさま不機嫌な態度を出して咳払いした。 「そして、これはのちに分かったことなのですが、どうも平行世界から平行世界へメールを飛ばすとラグが発生するようなのです。正確には一年と二十三日分のラグです。  つまり、今から平行世界へメールを飛ばすと、時空を超える時に掛かる負荷が原因で宛先がぶれ、三百八十八日後の未来へ、つまり過去から未来へとメールが飛ぶといった寸法です。 三百八十八日分の日付変更線があるようなイメージですね。あちらからのメールは反対に一年と二十三日分だけ未来のものということになる」 「そんなことが可能なのかい?」  男は思い切り標準語で質問を飛ばしてきた。なるほど、これがこの男の素か。
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