第1章

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皿の割れる音が物置の奥まで響いてきた。 あ、危ない。 私は直感する。 今までの経験からして、私はまたママにほっぺを打たれる。 「お前のせいよ、お前なんか消えちまえ」 って言われながら。 何度も何度も。 ママの気が済むまで。 髪の毛を引っ張り上げられて必死で助けを乞う私に容赦なくほっぺを打つママの怒りに歪んだ顔。 叩かれた後のジンジンするほっぺの痛み。 最近は溢れなくなった涙。 辛い記憶がジグソーパズルのピースみたいにパラパラと脳裏に浮かんでは消えていく。 外から足音が聞こえる。 ママだ。 やっぱり、打ちに来たんだ。 ママはこの物置を普段使わない。 使えば私と顔を合わせるハメになって不快だかららしい。 ちなみにこの物置は家の外に私を閉じ込めておくために買った物でとても高かったんだとママに冷水をかけられながら言われた。 ママが家から出て来たらしく、規則正しい砂利と靴が擦れて生み出されるリズムは、私の高鳴る心拍音と混じってどっちがどっちなのか分からなくなる。 そのうち片方が止んだ。 残った心臓の音。 ママはきっと戸を挟んだ奥にいる。 あぁ…ああ。 恐怖で胸が押しつぶされそうだ。 神様仏様…と手をすり合わせて願ってみる。 何も起こらない。 そりゃそうだ。 神様や仏様が居たらとっくに私を助けてくれていてもいいはずだ。 なのに、私は物心ついた時から物置で暮らしている。 つまり、そんなものは誰かの幻想なんだ。 独りよがりなんだ。 自分でどうにかするんだ。 戸が開いた瞬間飛び出てどこか遠くへ逃げよう。 2度とこんな場所には戻って来ない。 そう覚悟を決めて息をフーッと吐いたとき、物置の隅っこに何か見つけた。 くしゃくしゃになった白い2つの小さな紙。 いつ開くか分からないその戸に怯える事はもう無いが、戸が開いた時点で戦いは始まる。 戸が開くまでの時間はそんなにない。 だから、どちらかの紙しか読むことは出来ないだろう。 手前に置いてある紙を手に取って、落ち着いてその紙を開く。 紙と紙が擦れる音と共にギュッと詰められた沢山の文字が露になる。 開いたその紙に書いてあったのは今の私にとって神のお告げのようなものだった。 まるでシナリオレーターが書いた冒険の物語で、確定した成功の筋書きみたいだった。
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