0人が本棚に入れています
本棚に追加
「いえ、別に・・・」
俺は振り返って、曖昧に笑って答えた。その時、無意識に引き戸を開けて、前を見ずに足を外に踏み出してしまった。とたん・・・。
敷居につま先をひっかけて、外へつんのめった。そこへ、申し合わせたようにダンプカーが突っ込んできた。頭のてっぺんをダンプの側面が擦って走り抜けていった。
「あぶねえなあ・・・」
大将が言った。研究所員達も振り返って、口ぐちに、
「ああいうのがいるから交通事故がなくならないんだよ」
「こんなとこあんなに飛ばす奴いるかよ」
などと言い合った。
「大丈夫かい?」
という大将の言葉に、俺は頭のてっぺんを手で撫でながら照れ笑いを浮かべた。
どうやら助かったらしい。メールのおかげで、無意識に両手で戸の桟を掴んで、倒れる体を支えたようだ。
俺は、ほっとした。メールの中身がイタズラにせよ本物であるにせよ、まあ、痛い目には合わなかったのだから、良いではないか。仮に、500年後は波乱万丈の人生があったのかもしれないが、最後がブラックホール送りでは怖すぎる。いずれにしても助かったわけだ。ドジでもおっちょこちょいでも、この生を生き切ろう。
そう決心して、外に出た。
そこにまた別のダンプカーが突っ込んできて、今度は見事に俺は跳ね飛ばされた。宙を飛んでいる刹那の時間に、俺は俺を罵倒した。
ダンプカーが二台通るなんて言ってなかったじゃないか。そういう大事なことを言漏らすな! バカ! 間抜け! おっちょこちょい!
ああ、さすればきっとあのメールは本当なんだ。俺は、冷凍保存されるんだ。500年後に甦り、宇宙海賊になって、最後はブラックホールか・・・。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!