第1章

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 今日、故郷を捨てる。火星を捨て、地球で生きていくのだ。青く輝く星で、私は人間になる。  ただ赤い砂が広がってるだけこの星に人間はどんな夢を抱いていたのだろうか?  火星を隈無く探索、採掘し、かつて人間によく似た生物が存在していたことを突き止めた。そして、さらにはその生物ーー我々の祖先ーーの遺伝子を見つけたのだ。その遺伝子から彼らは私たちマルスを創り出した。庇護という名の檻に私たちを閉じ込め、貼り付けたような笑顔の裏に優越感を私たちに隠す。人間とマルス少なくとも私の目にはーー人間達によってつけられた右耳のピアス以外はーー何も変わらないように見えるのに。  私のそのピアスは今、手の中にある。  ずっと鍵を外し檻から出る方法を模索していた。狭く閉ざされた世界に、人間達のあの笑顔に、私は押し潰され少しずつ削れていく。完全に削れて無くなってしまう前に、私はここから抜け出したかったのだ。  そして、ようやく私はピアスを外すことができ、今は地球に向かう貨物船の中にいる。刻々と出発の時間が近づいてくるにつれ、胸の鼓動は速くなる。見知らぬ世界への期待、自由への希望が身体中を駆け回っているのだ。  そのはずなのに、ピアスは私の手の中にある。捨てられずにいるのだ。ずっと疎ましく思っていた檻の鍵なのに……  ふいに訪れた浮遊感で、私は故郷と別れの時が来たことに気づく。 「さようなら」 儀式的に発した言葉と同時に頬に何かが伝った。頬に触れて確かめてみると、それは目から流れ落ちてくる涙だった。何故自分が泣いているのかはわからないが、この胸が苦しいのはきっと鼓動で胸が破裂しそうだからだ。そう自分に言い聞かせ、ピアスをポケットに突っ込んだ。  青く輝く星に夢を抱いてーー
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