入れ替わり

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 確かに老いている。もしかしたら持病とかがあって、明日をも知れぬ命かもしれない。けれど、一見したところこの体は丈夫そうで、もう十年くらいは軽く生きられそうな気もする。いいや、たとえ余命幾許もなくても、この老人は凄まじい金持ちだ。かけていた生命保険だけでは、まだ小さな子供を抱えた妻の将来が心許なかったけれど、この老人の財産を遺産として渡す手続きができれば安泰だ。  どうせ先がないのなら、少しでも余生が長くそうなあげく、たんまりと金を持っている老人になれたのは都合がいい。  これだけの金があれば、何不自由のない生活を保障してやれるし、寿命の限り後見人として妻子を見守ることができる。  昨夜の老人は、もうこの家を離れたのかな?  ちょっと具合は悪いけれど、まだ病気からくる痛みを感じるようなことはなかったから、暫くは癌のことはばれないだろう。その間に、財産贈与などの手続きを終えてしまおう。ああそうだ。あの老人が元に戻りたいと言い出す前に、俺は無論、危害を加えられぬよう、妻子の行方もきちんとくらまさないとな。  べッドを降りると、頑健そうではあるがそこは老人。体のあちこちがぎしりと軋んだ。だけどそれは、俺が妻子に何も残せない若造ではなく、可能な限りの保障を授けてやれる老人になった証だ。  あの老人がここに戻る前に総てを為さなければ。  そう意思に刻み、俺は、今は自分自身となった老人の個人情報を得るため、家探しを始めた。 入れ替わり…完
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