装填

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初恋は叶わないとよく言われているが、あれはどうやら本当らしい。 フリルやらリボンやらの、多少手の込んだ改造が施された軍服に袖を通す。 全身鏡に自らの姿を映せば、何とはなしに溜め息が漏れた。 腰まで伸ばしたストレートヘア。 しかしその髪色は、煌めくシルバーブロンド。 おおよそ日本人離れした銀髪である。 肌は雪の如く白く、それ故に真紅の双眸がより際立つ。 ビスクドールみたいだの、天使だの色々誉め言葉を聞いたが、未だかつてミカの台詞を超えた者はいない。 『音羽ちゃんの髪は綺麗だね。キラキラ光って、まるで月の光そのものみたい』 小さい頃、月光を反射して煌めいた私の髪を撫でながら、そんなことを言ってくれたミカ。 ミカの言葉で、今まで疎ましく思っていたこの銀髪が好きになった。 櫛を手にとり髪を梳いていると、ガチャと扉が開かれる。 レディーの部屋に入るのに、ノックもせずに開ける不届き者は、私が知る限り1人しかいない。 「音羽!」 扉の方に顔を向けると──案の定、彼だった。 ドアを中途半端に半開きにし、そこから顔だけを覗かせる黒髪の少年。 彼の名は、百夜優一郎。 愛称・優。幼なじみ兼同居人である。 「早く行こーぜ」 同じく軍服に身を包んだ彼は、よほど任務が待ちきれないのか、私を急かす。 そんな彼に私は髪を結びながら、低い声で返す。 「…優。時間厳守は感心するけど、女子の部屋にノックもなしに入ってくるなんて、誉められたもんじゃないよ?」 そう諫めると、優はちょっとげんなりした顔をした。 「またそれかよ…毎度毎度よく飽きねーな」 「あんたこそ、よくまぁ毎日言われても学習しないよねぇ」 「ほっとけ」 毎朝の習慣になりつつある、軽口の応酬。 最早、ルーティーンかなんかじゃないかとすら思えてくる。 「ってんなことしてる場合じゃねー!」 ツーテールに整え終えたと同時に優が叫ぶ。 「早く行くぞ!」 「分かってるよ…」 呆れ気味にそう応答してドアに向かうと、走り出そうとしていた優の足が止まった。 「…っと、音羽、お前指輪忘れてるぞ」 「え」 胸元をまさぐると…本当だ。優の言う通り、首から下げている指輪が無い。 慌てて取りに戻り、オモチャの指輪をチェーンに通したペンダントを首に掛ける。 この指輪は、私とミカの思い出が詰まった宝物。 「行こ、優」 「おう」
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