マジック00 山の上の洋館

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 とある地方の山間に、小さな田舎町があった。    北、東、西の三方をぐるりと山に囲まれ、一本だけの鉄道の線路と、数本の幹線道路が走っている。その合間を埋めるのはほとんどが田畑で、広大な田畑の中に数軒ごとに集まった家々が点在していた。    どこにでもある田舎の風景だ。    しかし、そのありふれた田舎の情景の中に、一点だけ周りとそぐわない不思議な景色があった。    町を囲む三方の山の中で一番低い北山。    赤や黄色に染まり始めたその頂上近くに、紅葉より渋い朱色の屋根が覗いている。屋根のてっ辺には八端十字架が金色に輝き、そこが教会であることを示す。    その教会の少し下辺りには、古い洋館が見えた。薄緑の切妻屋根に下見板張りの、白亜の豪邸だ。    ここは日本の山間の、ただの田舎町である。西洋情緒漂う港町や、同じ山間でも、白樺が群生する閑静な高級別荘地ではない。赤い屋根に八端十字架の小さな教会と、緑の切妻屋根の白亜の洋館は、ただの田舎町にはとても似つかわしくない。いや――。  似合わないどころか、浮きまくっている。  二つの建物は、大正時代の同じ頃に建てられたという。なぜこんな田舎に、そんな洋風な建造物が造られたのかは、今となっては誰も知らない。  教会には現在、幼稚園が併設され、賑わってはいるが熱心に通う信者は少ない。また、すぐ下の洋館も建造時の家人の子孫が暮らしてはいるが、豪邸の割に家族は少なく、ひっそりと静かな佇まいだった。  北山は浮いた景色でありながら、静かな時間が流れる、平穏な場所でもあった。  しかし――ある朝異変が起こる。    晩秋の早朝。冴え冴えとした朝日に照らされ、白亜の洋館は一層白く浮かび上がって見えた。屋敷の白い壁が朝靄の中、朝日を反射してきらきらと輝く。白い輝きだ。  その白い輝きが、一瞬薄紅色に光った。――と同時に、洋館の一階南東の窓が震えた。    それは小規模な爆発だった。    歴史的建造物のような豪邸だが、洋館には現在も普通に暮らす人々がいる。爆発を起こした南東の部屋にも人影があり、人影は無傷のようだがピンクの煙に激しく咳き込んでいた。
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