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メモリーにモデルを要請するシロー自身、心が痛んだ。偽りが心を歪めようとしていた。メモリーもその話には心弾まなかったが、シローの物語を素晴らしくしたい思いは心弾むように思えた。
「シロー、一つだけ、聞いて。私、心の美しさはどんな事があっても歪めないわよ」
シローはメモリーの思いが嬉しかった。
「メモリー、お願いがある」
「何?」
「今、僕のモデルになってほしい」
「いいわよ。私、何をすればいいの?」
「そのまま動かないで。メモリー、僕は君を後ろから抱き締める。だけど僕、シローが抱き締めるんじゃない。ココロノアイ王国の王子が君を、求愛の為に抱き締める。そう想像してほしい」
メモリーは無言のままだった。シローは背後からメモリーを抱き締めた。抱き締めた瞬間、彼の心の全てが喜びに満たされ、バラ色に輝いた。運命の全てが幸せ色に輝く思いだった。彼の心は完全にメモリーの魅力に魅了された。もはや王子にメモリーを譲る事は考えられない事だった。自分の生涯のパートナーとして側にいてほしかった。彼の心は喜びに震えていた。言葉が出ない程に魅了されていた。
「シロー、私を抱き締めて嬉しい?」
シローの心から言葉が出なかった。
「シロー、私、王子に抱き締められるよりね、あなたに抱き締められた方が嬉しいわ」
シローはこれ以上に素晴らしい運命はないと思えた。この喜びの為なら全てを捧げられる、彼はそう思った。命も人生も捧げられる喜び、その喜びが他人に流れて行く。それだけは阻止したかった。喜びと苦悩で呻吟する心は、歪みかけようとしていた。正道を向けば喜びが王子に向かうのが辛かった。シローはメモリーを抱き締めたままだった。心が歪んで行く運命を感じた。大きな苦悩の波に飲まれる思いだった。
「シロー、私を抱き締めて嬉しい?」
メモリーの声は遭難した時の救助の声のように思えた。暗闇で進む明かりのように思えた。自分の進むべき道がはっきり見えた思いだった。
「嬉しいよ、嬉しい!最高に嬉しい!メモリー、君は希望の明かりだよ。喜びと生き甲斐の明かりだよ」
「嬉しい!シロー、運命は一つよ。心美しいままに愛に生きるの。それだけで十分よ」
「メモリー、愛がより美しく輝く為にはね、嵐や木枯らしが必要なんだ。試練や苦難が必要なんだ。都合のいい運命や理想だけでは愛は輝かないんだよ」
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