第1章

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 13ページ 「シロー、私、このままでいい。今のままでいい。決して都合のいい運命を望んでないわ。理想の運命求めているのでもないわ。シロー、あなたの側がいいわ。あなたに口付けした時、嬉しかった。いつまでも口付けしたままの運命でいい。シロー、私の生き甲斐はあなたの役に立つ事よ」  メモリーを抱き締めるシローの両手に力が入った。 「メモリー、嬉しい!最高に嬉しい!命の尊さが、自分が生きている事が、こんなにも素晴らしいなんて!今まで生きて来た中で一番素晴らしい運命だよ」  メモリーは正面からシローを見つめた。 「シロー、嬉しい!命の尊さが愛で包まれている。私の全てがあなたの心の美しさに包まれている。そんな気がするの。私の命の尊さが輝いて行く、そんな気がするの。シロー、私に愛の素晴らしさ、愛する素晴らしさを体験させて」  メモリーはまたシローに口付けした。先程よりも長かった。シローの心はメモリーの魅力に完全に魅了されたままだった。心の世界にはメモリーの魅力以外は何も存在しない程だった。それさえあればどんな運命にも対峙出来る思いだった。それ程に素晴らしい喜びだった。メモリーは愛の全てのように思えた。愛は喜びの全てだった。メモリーはにこやかに、 「シロー、嬉しい?私の口付け嬉しい?」 「嬉しいよ、嬉しい!喜びの全てだ。メモリー、生きている事が最高に嬉しいよ」 「良かった!シロー、私も嬉しい!命の尊さに灯る明かりそのものよ」  シローの心の喜びを、黒い運命が包もうとしていた。こんなにも魅力的なメモリーを誰に譲る?出来ない。絶対それは出来ない!メモリーは自分だけのものにしたかった。しかしそれをしてしまえば小説への裏切りであり、小説が全てという運命への裏切りだった。自分の全てを小説に捧げようとした自分が、小説の一番いい部分を自分のものにしてしまう。それは自分に対する裏切りだと彼は思った。許されない事だと思った。苦しかった。 「メモリー、明日のハロウィーンの準備、するだろう?」 「するわよ。シローはどんな衣装がお望み?」 「メモリー、君が好きな衣装でいいよ。それよりメモリー、君はこれからココロノアイ王国の王子と出会う」  シローは言い難くて胸が痛んだ。小説の流れに背を向ける事は出来なかった。
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