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小説家が経営している、思い出を買うお店。素晴らしい思い出、悲しい思い出、楽しい思い出、感動的な思い出、心に残る思い出なら何でも買い取る。目立たない小説家だからお金は少ししか払えない。だから客は少ないが、常連客がいた。この店のキャラクターはロボットのメモリー。アシスタント。両手両足は人間と同じ働きをする。胸はハートの形。先の尖った部分が下。胸から上はバラの花。メモリーはとても褒め上手。仕事は何一つミスなくこなす最高のロボット。話題が恋心や恋愛になると、メモリーは狼狽する。その時だけバラの花の色が変わる、乙女的な部分もある。所が、最近はその話題がないのにメモリーは狼狽する。花の色も変わる。そしてそわそわ落ち着きがない。時には上の空の時もある。この頃のメモリーは変。
メモリーは未来のおもちゃの国から恋愛体験する目的で三年間、地球に留学するはずだった。しかし、正確には家出同然。地球への留学を猛反対されたメモリーは、着の身着のまま家出同然で地球に向かった。だから地球に着いた時には、汚れて萎えてゴミのようだった。裕福な家の庭先で力尽きた。その家の住人にゴミとして、ゴミ捨て場に捨てられた。誰にも見向きもされなかった。色んなゴミと一緒だった。メモリーは完全に電池が切れた状態だった。そんな状態でメモリーは小説家に拾われた。拾われた時は体長五十センチ程のぬいぐるみだった。今は小説家と同じ程の高さだった。メモリーは成長するロボットだった。メモリーは力尽きるまでの記憶はあったが、力尽きた後の記憶はなかった。小説家に拾われて完全に充電されてから、意識がはっきり戻った。その時、メモリーは自分の姿にびっくりした。明らかに大きな違いがあった。小説家はメモリーを綺麗に洗って飾った。メモリーは深く大きな感謝の思いを胸に抱いた。命の恩人だった。それからのメモリーは、ロボット式の絶対的な忠誠で、小説家のアシスタントを勤めた。
おもちゃの国を出てから二年が過ぎようとしていた。そろそろ恋愛体験を、メモリーはそう思っていた。三年で何が何でも帰らなければならない、そう思っていた。三年以上は大罪、心にそう言い聞かせていた。メモリーは目的へと意識を高めていた。自分の意志ではどうにもならない事だと思っていた。しかしその運命の前触れのようなものを、メモリーは感じていた。
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