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五年前、自分の生徒のいかがわしい写真を撮っては、ネット上で売りさばいていたひとりの教師が逮捕された。
彼のパソコンの中には何百という女の子の写真があって、そこに、わたしの写真も含まれていた。
かわいいねえ、の言葉につられてピースサインするわたしが。
スカートの裾に気もつかわず階段をのぼるわたしが。
無防備で無知で無警戒な、わたしが、わたしが、わたしが――。
「――――!」
自分の喉の奥で聞いたこともないような音がした。
くり返す吐き気に耐え切れず、ブレザーを踏みつけしゃがみこむと、その昔、教室中から向けられた目という目が脳裏に浮かぶ。
一見、同情するような目。けれど実際は侮蔑する目。好奇の目。りこちゃんは「自分は悪くない」と言い切ってはねのけることができた――たくさんの、視線。
さえぎるように頭を振れば、鏡越しに、幽鬼のようなわたしと視線がかち合った。
住み慣れた土地を離れ、愛に満ちた大人に守られ、忘却という偉大な武器を使って手に入れた「わたし」は、もう、いなくなっていた。
一瞬だった。
わたしは四つん這いで部屋を横切り、スマホをつかんだ。
『わたしは恨みを忘れなかった』
無機質な文字が並ぶ。
『だから田野原先生を殺しました』
淡々と。
『後悔はしていません』
未来のわたしは鍵という鍵を順序よくとりのぞいていく。
『あなたは、どうしますか』
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