ロージンバッグを置いて

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〇カレー屋「いんでぃ」 猛烈な勢いでカレーを食べている結子。 結子「マスター、30倍カレー、おかわり!」 マスター「お姉ちゃん、激辛平気なの?」 結子「腹が立つとき、特にね」 マスター「そうそういないよ、そんなの食べるヤツ――」 カウンター奥に座っている織田和哉(20)。 織田「マスター、30倍カレー、おかわり」 驚いて振り返る結子。織田と目が合う。 マスター「――あいつを除いてはね」 結子「あれは確か……スイングスの織田和哉」 挑戦的な目でニヤついて見ている織田。 織田「お姉さんの限度は30倍?」 結子「(ムッとして)……マスター、30倍じゃなくて40倍にして」 織田「そんじゃオレも40倍」 織田をにらみつける結子。 結子「50倍!」 マスター「おいおい……」 織田「じゃ、オレもね」 マスター「ホントにいいの? お姉ちゃん」 結子「も、もちろんよ」 肩をすくめ、カレーを盛るマスター。 結子「確か……ドラフト協定に裏工作して強引にスイングスに入ったってヤツ……さすが性格悪そう」 織田と結子の前に置かれるカレー。 結子、匂いにクラクラするが、織田が見ているのを意識して一気にかっこむ。 織田も一口口に入れる。 目を白黒させて水をがぶ飲みする結子。 同じく水を一気飲みする織田。 互いに盗み見する二人。 織田「見栄っ張り」 結子「フン!」 結子、カウンターに金を置き、とっとと出ていく。 クックと笑い出す織田に、肩をすくめるマスター。 〇結子のマンション 居間 山のように積み上げたペディキュアの一つを塗っている椎名朱子(40)。 乱暴にドアを開け、機嫌の悪い顔で入ってくる結子。 朱子「あら、お帰り。ねえ、これどう? CM出たらこんなにもらっちゃった」 テレビでは真っ白なドレスの朱子が海辺で帽子を飛ばし、真赤な爪の裸足で追いかけるコマーシャル。 結子「そりゃよかったね!」 クッションを投げつける結子。 朱子「(肩をすくめ)何だかわからないけど、ストレスたまってんのね。仕事のこと?」 結子「いろいろよ」 朱子「大体あんたがスポーツ記者になるなんて思わなかったわ。女優になるってんなら七光、貸したげたのに」 結子「いらん、そんなもん」 朱子「……父親だったらきくわね、七光」 結子「冗談じゃないわよっ!」 朱子「よしよし。あんたはあいつよりあたしの娘だ」 朱子に頭を撫でられ、そっぽを向く結子。
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