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壁にもたれて見上げた空は、見事に星を鏤めて輝いていた。
青年と入ったこの裏路地は驚くほど静かだ。
彼は静かに隣に腰を下ろし、汚れた己の手など全く気にする様子もなく、ごく自然に煙草に火をつけた。
上がった息と、未だ火照ったままの体を持て余している自分だけが浮き彫りになったようで、異常なほど虚しくなった。
煙草の煙が鼻を刺す。
とても苦手な匂いがした。
「ちょっと…待っててください」
一服を終えた青年はそう言って立ち上がると、少し駆け足で何処かへ行ってしまう。
その背中を見て、何故だかほろりと涙が出た。
体が苦しいのもそうだが、もっと別の感情に苛まれる。
言葉になるほど出来上がった気持ちではない。
けれどもそれはとても苦しくて、痛くて、切なかった。
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