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つんと鼻をかすめる香りに思わず立ち止まる。
「何だこの匂い」
妙な高揚感を感じた。
もっと近くに行きたい。
湧き上がる欲求が体を支配する。
どことなく甘くて、でも甘すぎず、優しすぎない。
鼻腔の奥に柔らかく刺さるような痛み。
胸がきゅっと締め付けられ、形容し難い気持ちを覚えた。
香りを辿るかのように、足先は自然とどこかへ向かっていた。
履き慣れた革靴は一定のリズムから乱れ始め、やがて早足になる。
自分でも行き先がわからぬまま暫く歩き続け、そして見つけた。
すぐ前方を歩いている黒髪の青年。
背丈は自分と同じくらいだろうか。
特に変わった様子もなくどこにでもいそうな普通の青年の筈なのに、何故だか無性に欲しくて堪らない。
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