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惑わじのライトスタンド
〇西風ドーム 観客席
興奮状態で叫ぶ満員の観客達。
N「ホーム球場での試合は基本的にライト側が地元ファン、レフト側が相手ファン。特にライトスタンドと呼ばれる外野席は、熱狂的でパワフルなファンで埋め尽くされている」
〇同 グラウンド
野球放送「入った、入った! 筒井、サヨナラ満塁弾ー!」
両腕の拳を振り上げ、喜び満面でダイヤモンドを回る筒井恵一(25)。ホーム間際でバック転、観客を湧かせた後、貴賓席に投げキッス。
貴賓席には拍手を送っている椎名朱子(44)。
野球放送「ユニコンズの通算千本目のホームランはやはりこの人『お祭り筒井』です! 今夜のスペシャルゲスト、女優の椎名朱子さんは、筒井選手の理想の女性だそうです」
〇同 ベンチ前
お立ち台に立つ筒井を取り囲む記者達の中に野々村結子(26)と松本(22)。
松本「いやあ、絵になる男っすねえ」
結子「昨日まで連続ノーヒット記録更新中だったくせに。おいしいとこだけ取ってくヤツ」
筒井「オレ、やるときはやるヤツなんですよね~!!」
ヒーローインタビューで愛想を振りまく筒井に、フンと鼻を鳴らす結子。
〇病院
花束を持って特別室をノックする筒井。その後ろからカメラのフラッシュの嵐。
囲んでいるマスコミ連の中で、一人そっぽ向いている結子。
結子N「あたしは『激辛キッコ』と呼ばれる「東都スポーツ」のプロ野球担当記者。あたしの書く『ファウルチップ』は選手を一人ずつ吊るし上げるコラムとして好評を得ている。今回のターゲットはこのお祭り筒井」
筒井「やあ実君、元気かなあ?」
ベッドに起き上がっている高津実(13)とその横でりんごを剥く母。
母「実ちゃん、よかったわね。大好きな筒井選手がわざわざお見舞いに来て下さって」
実「遅いよ。どれだけ待ったと思ってるのさ」
母「こら、実」
実「ボクのおじいちゃんはユニコンズのオーナー会社の高津産業社長なんだよ」
筒井「ごめんごめん。お詫びにオレがいつも使ってるバットとグローブ、持ってきたから」
実、まだ仏頂面。
実「これだけじゃ足りない。ボクの為にホームラン打って。明日の試合、必ず」
母「実。ダメよ、無理言っちゃ」
筒井「よし、わかった。しっかり見てろよ、オレは約束は絶対守る。だから実君も約束だ、早く元気になるんだぞ」
実「……うん」
やっと機嫌の直った顔になる実。
結子「……フン」
面白くなさそうに鼻を鳴らす結子。
カメラに向かって、実と二人でVサインする筒井。
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