第4話 探る

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あの絵の作者『MISAKI』が来るまで、通りの反対側のカフェで見張る。 なんと非効率的で気の長い仕事だろう。 元より玉城はその人物の顔も知らないし性別さえも分からない。 ネットで検索してみてもそれらしい情報にヒットしない。あるいはMISAKIというのが通称ではないのだろう。 徹底した秘密主義なのか、それともプライベートを知られると困る事情があるのか。 玉城は取っ掛かりとして画廊のオーナーを当たってみることにした。 田宮は失敗したが、自分になら何か情報を提供してくれるかもしれない。 仕事柄、取材をすることも結構あったし、他人と打ち解けることは得意だった。 画廊は平日の昼間だということもあってか客は一人もいなかった。 玉城は静かすぎるその空間をぎこちなく歩きながらあの作者のイニシャルの入った絵を探してみたが、見当たらない。 展示してあったのは小宮が買った、あの一枚だけだったのだろう。 「ミサキ? 彼の事をお調べですか」 画廊『無門館』のひょろりと背の高いオーナーは、四角いメガネをずらしながら、玉城を見た。 「先日も彼の事をかなり詳細に聞きに来られた方がいらっしゃいましたが、実のところ画家との契約で、個人的情報はお教えできないことになってるんです」 「画家ってそんなに慎重なものなんでしょうか。……あ、いや全然こっち方面の事は分からないんですが。でももっと、ほら、個展やったりして積極的に名を打って売り込むもんだと思ってたから」 「ええそりゃあそうです。普通はね。でもあの人はちょっと……その。変わり者なんです。どちらかというと私が彼の絵と才能に惚れて、無理やり描いてもらってるようなもので。昨日売ってしまった絵だって、本当は私が買い取るつもりで置いておいたんです。けれど、熱心な紳士に落とされてしまいました」 その紳士は田宮が雇った代理人だろう。 「僕もなんです。あの女の子の絵、一目見て惹きつけられて忘れられなくなって」 相手のペースに乗る前に、何とかして取っ掛かりを掴まなければ、と玉城は食い下がった。
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