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「どうかした?」
玉城がそう言うとリクは視線を玉城にもどして何もなかったように表情を柔らかくした。
「いや、……なんでもない。ごめんね、ありがとう。荷物持って貰って助かったよ。何もお礼出来なくて悪いけど」
「あ……いや、とんでもない。こちらこそ」
急に締めの挨拶をされた気がして、少しばかり玉城は焦る。
「あの、電話番号書いておくから本当、何かあったらそっちに連絡してね。こういう事故は後でどっか痛くなったりするんだから」
玉城は持っていたレシートの裏に番号を走り書きすると、中央のテーブルの上に置いた。
「いいよ、ここ電話ないし、携帯も持たない主義だから」
「そうなの?」
「うん、どうもありがとう。じゃあ、これで」
そう言われてしまってはもう帰るしかなかった。
これでいいんだろうかと思いつつも玉城は、「お大事に」と、少しばかり間の抜けた言葉を残して、その家を後にした。
--- かなり激しくぶつかった。本当に怪我は大丈夫なんだろうか。
携帯も電話も持たないで今の時代、仕事ができるんだろうか。
いったい何をしてる人なんだろう---。
昔からいろんな物事や人に興味を向けて迷走し追求するくせが玉城にはあった。
ついつい、いろいろ詮索してしまう。
昔付き合っていた女性にも「鬱陶しいからあれこれ詮索しないで」とよく言われた。
改めようと思うが、なかなか癖は直らない。
家の前に止めてあったボロ自転車を押し、トボトボ歩き出す。
運良く粗大ゴミ置き場に通りかかり、他の自転車の横にそっと自分のを置いてきた。
あのまま押していたら、自宅アパートに帰るまで何時間かかるか分からないところだった。
……何故だろう。あの家を出たあたりから頭が痛い。
風邪のひき始めなのだろうか。
そんな事を思っていると携帯のバイブが唸った。
出版社からの電話かと思って表示を見たが、違った。
がっかりして電話に出る。
「早速ですが、玉城さん。バイトの内容が固まったから明日にでも来てくれませんか?」
グリーンライフローンの小宮からだった。
借金の代償のバイトなんて……。 まともな仕事の予感が全くしない。
自分も自転車同様、廃車寸前だな。
溜息をつきながら玉城は、携帯に向かって「はい」、と力なく返事をした。
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