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翌日、グリーンライフローンに顔を出した玉城は、小宮老人が出してきた油絵を見て驚いた。
「え……、この絵ですか?」
目の前にあるのは、ちょうど昨日、ここへ来る途中の画廊で見かけた少女の絵だった。
光に溶けそうな日だまり色のワンピースを着て、何か語りかけたそうな、憂いを帯びた目をして林の中にたたずんでいる。
「この絵昨日見ましたよ。この近くの画廊で」
興奮気味に言う玉城に、小宮は悲しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
「私はこの絵を見た時、震えが来るくらい驚きましたよ。すぐに購入したかったんですが画廊の主人が、これは売る予定じゃないなんて馬鹿げたことを言うもんだから……。
商売柄もめ事は極力起こしたくないし、知人を通して今日やっと手に入れたんです」
「え……っと、で、この絵がどうかしたんですか?」
玉城の質問に小宮は声のトーンを更に落として続けた。
「この絵に描かれている女の子なんですが、私の古い友人の孫娘にそっくりなんです。その子は一年前に家出したんですが、まだ見つかっていなくて」
「家出ですか?」
「ちょっと親ともめて飛び出して、それっきりだそうなんです。それはもう友人は心配してましてね。事件に巻き込まれたんじゃないかとか、悪い奴に捕まってるんじゃないかとか……。私には孫はいませんが、気持ちは痛いほどわかりますし、何か協力出来ないかと思ってたんです。そこにこの絵でしょう?」
「でも、他人のそら似かも知れませんよ?」
「そうです。その可能性もあるから内密に調べたいんですよ。あなたにはこの絵を描いた人物の居場所を捜してほしい」
「え? 捜す? だって、画廊のオーナーに聞いたらいいじゃないですか」
「それがまるっきり教えてくれないんですよ。画家本人が秘密主義みたいで。あまりしつこく聞き出そうとしたことをオーナーにしゃべられて、その画家に警戒されてもまずいですし。……あ、いえ、その画家が女の子をどうこうしてるとか、そんな風に思ってる訳じゃないんですが、やっぱり話くらい聞きたいじゃないですか。
それでね、近いうちにまたその画家が絵を搬入してきてくれるって事だけは聞きつけたんです。その時がチャンスかと思うんですよ」
玉城はゴクリと息を呑み、絵を改めてじっと見つめた。
絵の右下には小さく簡略化したアルファベットのサインがある。
かろうじて《MISAKI》と読みとれた。
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