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「僕はその画廊を見張るわけですか? MISAKIという人物が現れるまで」
「そうなります。住所までは無理でも、どんな人物なのか突き止めて欲しい。……嫌ですか? 借用書の破棄という条件では」
「いえ、やらせていただきます」
「ありがとう。感謝します」
小宮は人の良さそうな顔でニコリと笑った。
「ああ、それから玉城さん、この問題はデリケートですので絶対他言はしないでください。友人にも白黒つくまで内緒なんです。
そして、画家がどんな人物なのか分かったら写メしてすぐに私に連絡をください。決して探していることなどを悟られないように。あなたに何かあったら大変だから」
「わかりました!」
その言葉に、身の引き締まる思いがした。
これはかなり真っ当なバイトではないか。
少しばかり危険な匂いはするが、れっきとした人助けだ。
玉城はもう一度その少女の絵をじっと見つめ、胸をなで下ろした。
◇
小宮の事務所を出ると、取りあえず玉城はあの画廊の方向へ足を向けた。
昨日は自転車だったが、歩いてもそんなに時間はかからない。
あの画廊を常に見張っておかなければならないとなると、監視ポイントの有無も確認しておきたい。
今すぐ貼り付く必要も無さそうだが、他にすることもなかった。
そう。金は無いが時間はある。金を返せない負い目もある。
まったく自分はこの仕事に打ってつけの人材なのだと改めて思った。
画廊へ向かう歩道を歩いていた玉城はふと足を止めた。
リクとぶつかった曲がり角に差し掛かったのだ。
そういえば、彼はどうしているだろう。
サラリーマン風では無かったが、どこかに勤めているはずだ。
本当に手首をひどく痛めていたとしたら、仕事に差し支えるのではないだろうか。
負い目という点では、リクに関しても同じだ。
幸か不幸か、時間はたっぷりあった。
玉城はくるりと角を曲がって、あの家のあった方角へ歩き出した。
何故だろう。
楽しい訪問であるはずはないのに、気持ちが次第にゆったりと落ち着いていく。
両脇の街路樹が昨日と同じ、玉城を誘うようにサワサワと揺れる。
車とも人ともすれ違わない小路。静かな住宅街。
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