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木漏れ日を浴びながら進むと、あの古い一軒家がポツリと現れた。
幻ではなかったんだと、ほっとした自分が妙におかしい。
幻であるはずはないのに。
今気がついたがドアホンがない。
ドアの横に木枠の窓があるが、カーテンもブラインドもかかっていなかった。
覗いてもいいのだろうか。少し躊躇したが、玉城はそろりと中を覗いてみた。
彼はいた。
斜め後方からなので表情は見えなかったがテーブルの前で果物ナイフを握り、ボーッとしている。
テーブルの上には青いリンゴが1つ。
しばらく青年はじっとしていたが、何となく渋々と言った感じでリンゴを手に取ると、右手に持っていたナイフでゆっくり皮をむき始める。
けれどすぐに彼はそのナイフを足元に落としてしまった。
“あ・・・・!”
居ても立ってもいられなくなり、玉城は素早く玄関に回り、慌ただしくドアをノックした。
けれどシンとして何の反応もない。聞こえないはずはないのに。
再びトトトトトンと慌ただしくノックする。
「こんにちは!新聞屋です!」
わざとらしく大声で言ってみた。
今度はガチャリとドアが開く。
柱にもたれかかるようにしてリクが顔を覗かせた。人形のように無表情だ。
「間に合ってます」
「サービスしますから」
そう言うと玉城はリクの横をすり抜けて勝手に中に入り込んだ。
土足でいいというこの家の造りが「壁」を感じさせない要因なのかも知れない。
玉城は自分でも不思議なほど当然と言った感じでテーブルに近づくと、リンゴを手に取り、ナイフで皮をむき始めた。
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